社員の自殺とデジタル広告不正から読み解く、電通デジタル部門の実態

電通本社

こんにちは。ユージーン(@Eugene_no2)です!

2016年9月、大手広告会社の電通が、デジタル広告について不正な取引があったことを認め、ネット広告の信頼を揺るがしたとして話題になりました。

そして翌10月、今度は、電通の新入社員だった高橋まつりさんの自殺が、過労によるものとして労災認定されるという耳の痛いニュースが立て続けに起きました(実際に亡くなったのは2015年12月)。

あまり触れられていない気がするんですが、高橋まつりさんが働いていたのも、デジタル広告系の部署(デジタル・アカウント部)だったんですよね。

今回は、電通の中でも特にデジタル広告を扱う部門の実態を、断片的にではありますが、読み解いてみたいと思います。

(当方は電通の関係者ではありません。あしからず。)

デジタル広告部門に関連する2つの事件

まず一つ目の事件は、デジタル広告部門の、インターネット広告の請求やレポートをめぐる不正。

電通は9月23日、インターネット広告の代金をめぐって広告主への過大請求があったと発表した。広告の掲載時期が本来の取り決めより短くなったりずれたりした場合にも、広告主に報告せず、請求額を正していなかった。

(引用:日経ビジネス

そして二つ目の事件は、デジタル広告部門で勤務していた女性新入社員の過労による自殺。

広告大手の電通に勤務していた女性新入社員(当時24)が昨年末に自殺したのは、長時間の過重労働が原因だったとして労災が認められた。

(引用:朝日新聞

この2つの事件が、同じデジタル広告部門で起きたことは偶然ではなく、広告業界関係者のTweetなどを見ていても、間違いなく共通した構造的問題があるように思います。

ここからは、電通のデジタル部門(ひいては、デジタル広告業界全体)が抱えている問題に、焦点を当ててみたいと思います。

デジタル広告の成長に注力する電通

電通といえば、テレビCMのイメージが強いかも知れませんが、ここ最近は、広告会社の中でも進んでデジタル広告(インターネット広告)に力を入れています。

最近ではテレビを見る人が減っていて、その代わりにインターネットを閲覧する人が増えていることや、消費者のニーズが多様化していて、同じものを一斉に流すテレビCMの効率性が問われていること、広告主の予算削減で、テレビCMよりも単価の安いデジタル広告に注目が集まっていることなどが、主な理由でしょう。

2016年7月には「(株)電通デジタル」という新会社を発足し、設立イベントでは電通の石井社長からは「Degital or Die」(=デジタル化するか、さもなくば死)という発言まで出たそうです。

それだけ「デジタル」は、電通の成長戦略の重要な一つであるということは間違いありません。

「会社の戦略」と「現場の実態」に生じているであろう歪み

しかし、様々な記事を読み解くと、そのデジタル広告を推進する現場の実態は、デジタルシフトを標榜する戦略とはかけ離れていた様子が見えてきます。

恒常的な人員不足

まず一つは、デジタル広告業界は、恒常的な人員不足であるということ。この点は、不正取引についてのインタビューで、電通の中本副社長も言及しています。

中本副社長は「インターネット広告のニーズが急激に増える中、対応できる人材が不足していた。不正を監視する社内体制も整っていなかった」と釈明。原因を調査中だが、単純ミスのほか、人手不足などで作業が追いつかず、契約期間に間に合わなかったケースがあるという。

(引用:毎日新聞

また、高橋まつりさんの過労死認定についての記事でも、

業務が大幅に増えたのは、試用期間が終わり、本採用になった昨年10月以降。部署の人数が14人から6人に減ったうえ、担当する企業が増えた。

(引用:HUFFINGTON POST

とあり、明らかな人員不足であったことが伺えます。

わたしも仕事で関わっていたことがあるので多少分かりますが、テレビCMの仕事なら、仕事の単価は億単位が当たり前ですが、それに比べてデジタル広告の仕事は、せいぜい数百万単位の仕事が多いんです。

つまり、確かなことは言えませんが、デジタル広告は売上が大きくないから、人件費を割くことが出来ず、人員を増やせないという背景があるのかも知れません。

残念ながら優秀な人間は少なく、大きな戦略を作ったりすることはおろか、与えられた目の前のタスクもボロボロこぼしていく有様だったりする。そりゃそうだ、給料低いんだもん。経験の少ない若者か、経験はあっても能力の低い人しか雇えない。

確立されていない運用体制

人手が少ないうえに、デジタル広告はまだ仕組みとして新しく、運用方法や体制が確立されていないという問題も指摘されています。

たいていは津波のように押し寄せる業務に呆然となってしまう。日付の確認ミス・金額の記入間違い・指示を勘違いして間違った発注をする、間違ったバナーを掲出する等々、細かいミスやケアレスが多発していく。呆然となりながら業務をしているとミスをしたことすら気づかず、次々とやってくる業務をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す。受注を取ってくる営業がそんな細かい運用の話をわかるはずもなく、売り上げのことだけを考えて、ミスが含まれたレポートや請求書を、分からないまま得意先に報告することになってしまう。

こんな状態で、まともな仕事が出来るわけがありませんよね。そりゃあ、ミスも起こるし、不正も出てくるし、社員だって体を壊すのは当たり前です。

察するに、高橋まつりさんも、このような状況下で仕事をしていたのではないでしょうか?

デジタル広告担当は毎日朝帰り、休日出勤当たり前が恒常化している。体を壊して休職する者も多い。

高橋まつりさんも、休職や退職で済めば良かったのですが・・・。本当に残念でなりません。

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ということで今回は、デジタル広告の不正と新入社員の自殺。2つの事件に共通して潜む問題について、焦点を当ててみました。

まだ新しいビジネスモデルや体制が確立されていない中で、電通の成長戦略として位置づけられ、仕事量が膨大であるにも関わらず、それに見合う人員を割り当てられなかった結果として起こった事件。つまりは、経営の問題ということ。

中本副社長は、不正取引のインタビューで、次のようにも発言しています。

「人為的なミスも含めて、この責任は、特定個人というより、業務を統括するマネジメント、我々も含めた経営の問題であると考えています。深く反省し、信頼回復に向け、全力で調査し、原因究明、再発防止に努めていく所存です」

(引用:BuzzFeed

どうか一刻も早く、これを実現してまともな組織、まともなビジネスモデルへと進化させてほしいと願ってやみません。

レポートの改ざんで人は死にませんが、過労では人は死んでしまうんですから…。

電通本社